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ハンバーガー紳士倶楽部 BURGER MADNESS

肉汁が多ければ、うまいという幻想。

8 MIN READRESEARCH
肉汁が多ければ、うまいという幻想。

一口かじった瞬間、肉汁があふれる。

テレビならスローモーション。SNSなら迷わずアップ。コメント欄には「これは絶対うまいやつ」の大合唱。たしかに、肉汁は強い。視覚的にも、食欲的にも。だが、ここで一つ確認したい。肉汁が多いバーガーと、うまいバーガーは、本当に同じものなのだろうか。

量が多ければ勝ち、というルールなら、我々はバーガーを評価するときに計量カップを持参すべきだろう。残念ながら、そんな紳士にはまだ会ったことがない。

今回は「肉汁=正義」という思い込みを、食肉の研究とハンバーガーの構造から考えてみたい。

ON THIS PAGE目次

01. 肉汁の多さは、「おいしさの証明書」なのか。

ハンバーガーを半分に割ったとき、断面から流れ出す液体。鉄板に落ちた瞬間、ジュワッと鳴る音。たしかに、心をつかむ光景である。

しかし、目で見える液体の量と、食べた人が口の中で感じる「ジューシーさ」は、同じ指標ではない。口内でどう水分や脂が広がるか、どんな食感が続くかによって印象は変わるからだ。しかも、写真には伝えられないものがある。かみ切ったときの抵抗、鼻へ抜ける香り、最後まで食べたときの満足感だ。

肉汁はおいしさの一部になり得る。だが、肉汁の量だけを見て「うまい」と断定するのは早い。

02. 牛肉のおいしさは、肉汁だけでは決まらない。

ここで、食肉研究の知見を借りたい。

2018年に学術誌『Translational Animal Science』に掲載されたO’Quinnらの研究では、11件の既存調査から、1,500以上の牛肉サンプルと1,800人以上の消費者による評価を統合した。そこで扱われた主な要素は、風味・柔らかさ・ジューシーさの3つだ。

結果は、「これだけあれば絶対においしい」という単独の要素ではなく、3つの評価の組み合わせが牛肉全体の満足度に関係することを示している。

ただし、この研究は主に牛肉の食味評価を扱うもので、グルメバーガー店のランキング調査ではない。だから、この数字をそのまま「日本のハンバーガーのおいしさ」に置き換えることはできない。

それでも参考になることはある。

肉汁は大切。だが、風味や食感を置き去りにしていいほど万能ではない、ということだ。

03. 重要なのは、「出た量」より「口の中でどう感じるか」。

ジューシーさは、単にパティから外へ流れた液体だけで決まる感覚ではない。

脂の含まれ方、加熱による変化、かんだときの水分の放出、口内での滑らかさ。こうした要素が、食べる人の印象に関わる。2016年の食肉に関するレビュー論文でも、筋肉内脂肪が風味・ジューシーさ・柔らかさといった感覚特性に影響することが整理されている。

ここで、ちょっとややこしい話になる。

皿の上に大量の肉汁が流れていても、口の中のパティがぱさついていたら、満足できるとは限らない。逆に、皿を汚さなくても、かんだ瞬間にしっとりした食感と肉の風味が広がる一枚は、十分に魅力的だ。

我々が求めているのは、皿に落ちた肉汁の量ではなく、口の中で完成する体験ではないか。

04. ハンバーガーには、バンズもチーズもいる。

ここまでパティについて語ったが、重大な事実を忘れかけていた。

ハンバーガーは、肉だけではない。

バンズ、チーズ、ソース、野菜。彼らにも人生がある。

たとえば肉汁が豊かなパティでも、バンズが過度に水分を吸って崩れれば、食べ心地は損なわれかねない。ソースが強すぎれば、せっかくの肉の香りが埋もれるかもしれない。一方、表面に香ばしい焼き目のあるパティと、甘みを抑えたバンズ、ほどよい酸味のピクルスが組み合わされば、「肉汁が滝のように流れる」演出がなくてもおいしく感じられることは十分考えられる。

これは個別の店舗を比較した実験結果ではなく、料理の構成についての編集部の考察だ。バーガーは、各食材が自己主張する舞台ではない。一口の中で、全員が仕事をする料理なのである。

05. 「赤い肉汁=うまい」には、別の問題もある。

ここは少し真面目な話をしておきたい。

ひき肉を使うパティでは、加熱不足による食中毒のリスクを軽く見てはいけない。厚生労働省は、ハンバーグなどのひき肉料理は病原体が中心部まで入り得るため、中心部75℃で1分間以上を目安に十分な加熱を行うよう案内している。

米国農務省(USDA)も、ひき肉について温度計で測った中心温度71.1℃以上を基準としている。また、肉の色だけで安全性を判断することはできないと説明している。日本で家庭調理する場合は、厚生労働省が示す中心部75℃・1分以上の加熱を目安に、温度計も活用したい。

「赤いからジューシー」「中心が生っぽいから本格派」――そんな見た目の思い込みは、安全な食べ方とは分けて考える必要がある。おいしさの追求に、無用な危険を挟む必要はない。

THE VERDICT|本日の研究結果

肉汁は、正義の味方かもしれない。だが、正義そのものではない。

肉汁の多さだけで、ハンバーガーのうまさは決まらない。見るべきは、風味、食感、そしてバンズやソースまで含めた一体感だ。次にハンバーガーを食べるときは、こぼれた肉汁の量だけでなく、「最後の一口までおいしかったか」も考えてみたい。

紙ナプキンの消費量で勝敗を決めるには、この料理は少し奥が深すぎる。

Q&A|肉汁とジューシーさ、よくある疑問

Q1. 肉汁が多いハンバーガーほどおいしいの?

必ずしもそうではありません。ジューシーさは食味を構成する要素の一つですが、風味や柔らかさ、バーガー全体のバランスも満足度に影響します。

Q2. 肉汁があまり出ないと、パティはパサパサなの?

外に流れる液体が少ないことだけで、口の中のしっとり感は判断できません。加熱や脂の含まれ方、かんだときの食感なども関係します。

Q3. スマッシュバーガーは肉汁が少ないから不利?

そのように一概にはいえません。パティの薄さや香ばしい表面、全体の食感を好む人もいます。本記事ではスマッシュバーガーと厚いパティの実食比較は行っていません。

Q4. 赤い肉汁が出ていれば、焼き加減は問題ない?

いいえ。ひき肉は中心部まで十分な加熱が必要です。日本の公的機関は中心部75℃で1分間以上を目安に案内しており、色だけに頼らず温度も確認しましょう。

Q5. おいしいパティは何を基準に選べばいい?

肉の香り、味の濃さ、食感、ジューシーさに加え、バンズやチーズとの相性まで見るのがおすすめです。自分が何に満足したかを言葉にすると、好みの一軒を探しやすくなります。

調査方法・出典・本記事の限界

本記事は公開研究と公的機関の資料を参照し、グルメバーガーへの応用について編集部が考察したものです。独自の官能試験、店舗への取材、肉汁の重量測定、複数店での食べ比べは実施していません。食肉研究の知見を、そのまま日本のグルメバーガー市場全体の実証結果として扱わないようにしています。

参考資料

  1. O’Quinn TG et al. (2018). Evaluation of the contribution of tenderness, juiciness, and flavor to the overall consumer beef eating experience. Translational Animal Science. https://doi.org/10.1093/tas/txx008
  2. Frank D, Joo ST, Warner R. (2016). Consumer Acceptability of Intramuscular Fat. Korean Journal for Food Science of Animal Resources. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5243953/
  3. 厚生労働省「お肉はよく焼いて食べよう」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000049964.html
  4. USDA Food Safety and Inspection Service, Safe Minimum Internal Temperature Chart. https://www.fsis.usda.gov/food-safety/safe-food-handling-and-preparation/food-safety-basics/safe-temperature-chart
  5. USDA FSIS, What is the best way to determine that the hamburgers are safely cooked? https://ask.fsis.usda.gov/article/what-is-the-best-way-to-determine-that-the-hamburgers-are-safely-cooked
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読んだら、食べに行こう。

気になる一軒は、ハンバーガー紳士倶楽部のバーガーサーチで。

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